研究レポート「年々増加する知的障がい児・者」 (NPO法人アゴラ音楽クラブ - Agora Music Club)

年々増加する知的障がい児・者

2017-11-19

【知的障がい児・者の増加に関する統計】

文部科学省によると、1990年代以降特別支援学校(2007年以前は盲・ろう・養護学校)の児童生徒が増え始めた(表1).特に知的障害が対象の養護学校(現・特別支援学校)で生徒の増加が目立ち、特別支援在学者数に占める割合が増加している(表2).

表1:特別支援学校在籍者数の推移-国・公・私立計-

年度

児童・生徒数   (単位:人)

小学校

中学校

合計

平成12

49,513

23,408

72,921

平成13

52,551

24,689

77,240

平成14

55,963

25,864

81,827

平成15

59,419

26,514

85,933

平成16

63,115

27,736

90,851

平成17

67,685

29,126

96,811

平成18

73,151

31,393

104,544

平成19

78,856

34,521

113,377

平成20

86,331

37,835

124,166

平成21

93,488

41,678

135,166


出典:文部科学省/特別支援教育資料(平成21年度)より


表2:特別支援学校(小・中・高等部)在学者中、知的障害者数の推移 -国・公・私立計-

年度

総数

知的障害

平成12

90,104

57,078

平成13

92,072

58,866

平成14

94,171

61,243

平成15

96,473

63,382

平成16

98,796

65,690

平成17

101,612

68,323

平成18

104,592

71,453

平成19

108,173

92,912

平成20

112,334

96,924

平成21

117,035

102,084


単位:人 ※平成18年以降は重複障害を含む
出典:文部科学省/特別支援教育資料(平成21年度)より


【気分障害患者の増加に関する統計】

また脳機能の障害以外に小学生以降に増えていると思われるものに気分障害・うつがある。2003年Birleson自己記入式うつ病評価尺度を用いて、札幌市、千葉市、岩見沢市の小・中学生3331人を対象に行ったアンケート調査では、小学生7.8%、中学生22.8%が抑うつ傾向を持っていることが明らかになった(傳田, 2009).
厚生労働省が3年ごとに全国の医療施設に対して行っている「患者調査」でも気分障害と診断される人が増える傾向がみられている(表4)。また平成8年には2.7万人だったうつ病の患者数は、平成20年には7万人と12年間で約2.6倍に増加した(表5).

表4:気分[感情]障害(躁うつ病を含む)患者数の推移(各年10月)

年次

推計患者数(単位:千人)

受療率(人口10万対)

総患者数

総数

入院

外来

入院

外来

(単位:千人)

昭和59年

55.5

29.2

26.3

昭和62年

72.6

31.8

40.9

平成2年

87.4

29.8

57.6

平成5年

77.1

29.5

47.7

平成8年

60.3

22.3

38

18

30

433

平成11年

64

25.5

38.6

20

30

441

平成14年

91.3

26.4

64.9

21

51

711

平成17年

104.8

27.8

77

22

60

924

平成20年

108.8

28.7

80.1

22

63

1041


出典:厚生労働省/平成20年患者調査より

表5:うつ病患者数の推移

年次

推計患者数(単位:千人)

受療率(人口10万対)

総患者数

総数

入院

外来

入院

外来

(単位:千人)

昭和59年

11

5

6

昭和62年

17.4

7.1

10.2

平成2年

23.1

6.9

16.2

平成5年

19.5

7.3

12.2

133

平成8年

27.2

8.9

18.4

平成11年

33.5

11.9

21.6

平成14年

54.6

13.5

41.2

平成17年

66.6

14.4

52.2

平成20年

70

16

54


出典:厚生労働省/平成20年患者調査より

「患者調査」は、医療機関に受診している患者数の統計データであるが、うつ病患者の医療機関への受診率は低いことがわかっており、実際にはこれより多くの患者がいることが推測される(厚労省HP・政策レポート, 2010).

【発達障害】

最近は発達障害、アスペルガー症候群ということばがマスコミなどでも頻繁に用いられるようになった.発達症害とは「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」(発達障害者支援法第2条第1項 ).前述した通り、特別支援教育を受ける児童・生徒が年々増加していることが確認されているが、それには何か原因があるのだろうか?
平成20年度厚生労働省障害者保健福祉推進事業「障害者自立支援調査研究プロジェクト」の一つとして発達障害の増加の実態と理由、新たな社会支援へのニーズを探るための調査が行われた.そこでは発達障害の中でも特に知的障害の増加が確認されたものの、原因は特定できなかった.そこで、その調査・研究の報告会に参加した250名余りの関係者に増加原因を想定してもらったところ、次のような点が浮かび上がった.

 ・診断基準の変化(発達障害の概念が広がった)
 ・障害観の変化(保護者の間で発達障害への抵抗が薄れ、特別支援教育を受けることを拒まなくなった)
 ・教育制度の変化(特別支援教育の充実と、教育への期待の高まり)
 ・育児能力の低下や子育てへの不安
 ・未熟児医療の進歩や低体重出生の増加により発達障害が増えた

これらをみると、発達障害の増加は現代社会が作りだしている現象とも考えられる。しかし、これに対し社会的な対策は十分とは言えず、医療・福祉・教育・機関連携についての満足度に関する調査では保護者や学校長・福祉施設長などの支援者にとってもニーズが満たされていないと評価されている実情が示された(発達障害白書2010年版).

【医療面での対策の必要性】

これらの対象者の治療・サポートに関しては、問題を医療面に限ったとしても一般医療の分野だけでは量的にも質的にもカバー出来ない.そこで実際医療現場で音楽療法を行なっている立場から,知的障害,発達障害,気分障害・うつを含む心の不全を持つ者に対して音楽(歌唱,リズム打ち,楽器演奏など)を介して関わることの有用性を提案したい.日本音楽療法学会の会則では音楽療法の目的として第2章第3条に「本学会は、疾病と健康に関わる音楽の機能と役割を学際的に研究し、音楽療法が、医療、福祉、健康・教育の領域において積極的に展開することを目指し、音楽療法を通して健康の維持・促進など広く社会に貢献すること」と謳われており、音楽療法が求められる対象として松井(1998)は、「発達に何らかの障害を抱えている対象、心理的葛藤やストレスからくる心身症状を示す対象、身体的機能障害を持つ対象、生活習慣や習癖に基づく障害を持つ対象、人格障害、精神障害を持つ対象、社会生活上の不適応、老化現象に基づく日常生活上の困難、何らかの不全感、無力感、苦痛、不快感を持つ対象、重い身体疾患、治癒困難な疾患などにより、不安、抑うつ感、焦燥感などを持つ対象」をあげている.
しかし実際に医療現場で音楽療法を展開するためには一般医療と、音楽療法を含む補完代替医療との統合医療体制が必要である。そのような体制が整わず,むしろ医療に排他的な意識がある状態では音楽療法を含む補完代替医療の参入は困難であろう.
補完代替医療とは、「現代西洋医学領域において、科学的未検証および臨床未応用の医学・医療体系の総称」(日本補完代替医療学会HP)と定義されており、厚生労働省では最近ようやくこれらを取り入れた統合医療のプロジェクトチームを作り活動を始めている.
米国では1990 年に米国国立衛生研究所(NIH)の中に国立補完代替医療センター(National Center for Complementary and Alternative Medicine、NCCAM)を設立し、最近では年間約400 億円の研究費を計上して15 ヶ所におよぶ大学のセンターに配分してその安全性、有用性、経済性などについて基礎および臨床的評価をすすめており、このような動きはヨーロッパをはじめ、中国、韓国、マレーシア、インドなどにも拡大し、米国と同様に国策として統合医療を推進しているが、日本での実現にはまだ遠い道のりのようである.
音楽療法の成果を広く世の中に発表することで、わが国でも統合医療体制の早期実現を期待したい.

【参考資料】

傳田健三(2009)心身医学会近畿地方会資料
松井紀和(1998)音楽療法入門, 音楽之友社
発達障害白書2010年版, 日本発達障害福祉連盟編, 日本文化科学社
厚生労働省, 統計調査結果, 平成20年患者調査
厚生労働省, 政策レポート「自殺・うつ病等対策プロジェクトチームとりまとめについて」

http://www.mhlw.go.jp/seisaku/2010/07/03.html
厚生労働省,「統合医療プロジェクトチーム」第2回会合資料
文部科学省, 平成21年度特別支援教育、資料


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